topimg

令和5年度活動報告

topimg

令和5年度活動報告

第1.生活困窮者のための総合支援シェルター事業の背景

(1)事業の経緯

 当法人は、2019年の設立以来、様々な要因によって行き場を失った人たちの為に、一時的にも身を寄せる事ができる【安全な居場所】の提供を目的として活動して参りました。

 特に、公的な支援制度では支援が行き届かない【制度の狭間】に落ち込んだ人たちを対象として、【安全で安心できる宿泊場所】と【暖かい食事】を提供しつつ、再び自立的な生活に立ち戻る事ができるような環境構築を心掛けております。

 しかし、【制度の狭間】に落ち込んだ人たちを対象としている為、公的な財源の獲得はなかなか得られません。

 この為、当法人の運営は、主に無償で参加して下さっている理事やボランティアの方々の協力によって成り立っています。また、財源についても有志の方々の暖かいご寄付や、民間の助成金によって成り立っています。

 令和5年度においては、【赤い羽根 ポスト・コロナ社会に向けた福祉活動応援キャンペーン 居場所を失った人への緊急活動応援助成 第7回】の助成を得て、シェルター事業を継続する事が可能となりました。

 財源の獲得がなかなか難しくシェルター事業の存続が危ぶまれる中で、全国から集まった【中央共同募金会】への募金が、当法人のシェルター運営を支えて下さいました。

 【中央共同募金会】に募金して下さった皆様に、心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとう御座いました。

 本ページにおいて、皆様からご支援を頂いた【生活困窮者のための総合支援シェルター事業】のご報告をさせて頂きます。

(2)本事業実施の背景

 近年、生活困窮に至る経路は多岐に渡り、また複雑化しています。

 一人親世帯や失業、借金問題などによる経済的な困窮のみならず、複雑な家族関係の課題や、知的障害・精神疾患・慢性的身体疾患などに経路を有する困窮もあり、またこれらの原因を複数抱えている場合も有ります。

 これらの生活困窮から脱する事を望むにしても、困窮した人びとの多くは自力では解決の難しい問題に圧倒され、ある種の恐慌状態に陥り、社会的にも孤立を深める傾向にあります。

 これらの問題は、最悪のケースとして自殺に至る危険性も孕んでおり、極めて深刻なものであると感じています。

 更に、コロナ禍や昨今の物価高の影響によって経済状況が急激に悪化し、新規に生活困窮に陥った人も増加しています。

 以上のような社会的な課題を認識した上で、当法人は、所在する北海道十勝エリアにおいて、生活困窮で行き場を失った人々の緊急支援を目的として、【安全な居場所】【心身を養う食事】【安心な時間】を提供すべく、【生活困窮者のための総合支援シェルター事業】を実施する事としました。

第2.生活困窮者のための総合支援シェルター事業の概要

(1)本事業の内容

 本事業は、様々な要因により生活困窮に陥った個人・家族に緊急避難先を提供すると共に、生活困窮から脱するための支援を総合的に提供する事を目的に実施しました。

①本シェルターは、生活困窮の要因を問わず、案件の【緊急性】と【事態の深刻度】を判断基準として受け入れを実施しました。

②生活困窮の為に居場所を失った人たちの為に、【安全な居場所(宿泊施設)の提供】【心身を養う暖かい食事の提供】【自立的な生活に戻る為の支援(居住支援・就労支援など)】【より適切な支援機関への仲介】を実施しました。

③緊急性や深刻度が低い案件については、【相談支援】や【より適切な支援機関への仲介】を実施しました。

④シェルター利用者の食事は、当法人の活動にご賛同を頂いている有限会社アグリ・ファクトリー(コミュニティサロン・あがり框)様のご協力を得て提供しました。

⑤当法人の活動にご賛同を頂いている「十勝むつみのクリニック」院長の長沼先生のご協力を得て、心身に不調を抱えているシェルター利用者のケアを実施しました。

⑥年末年始には、本シェルターの利用者が中心となり、無料の炊き出しを実施しました。

 

第3.事業実施レポート

(1)事業実施結果の概要

◆令和5年4月1日から令和6年3月31日までに、本事業において扱った案件は、全部で53件となりました。内38件(72%)がシェルターに入所し、令和6年3月31日時点で37名が退所しています。残りの15件(28%)は、相談対応及び住宅探しの支援のみであり、シェルターへの入所はありませんでした。

◆令和5年度事業において当シェルターを利用した男女の割合は、男性25名(65.8%)、女性13名(34.2%)であり、男性の利用が多い結果となりました。当法人の運営するシェルターは生活困窮の要因を問わず、様々な理由で行き場の無い方を受け入れる事ができる為、他の支援施設と比較して、活動的な男性に利用が集中したものと思われます。

◆利用者の年齢割合は、10代が2名(5.3%)、20代が4名(10.5%)、30代が6名(15.8%)、40代が5名(13.2%)、50代が10名(26.2%)、60代が5名(13.2%)、70代が6名(15.8%)でした。50代が顕著に多く、次いで30代、70代の利用者が多い結果となりました。

◆利用者の拠点地の割合は、上記の表の通りです。
本事業は、事業の対象エリアを十勝管内としていましたが、十勝管外を拠点(本来の所在地)としながら、十勝管内に来訪して生活困窮に陥り、本事業の支援を得た事業者も多い結果となりました。十勝管内に拠点を持つ利用者は27名(71.1%)、十勝管外に拠点を持つ利用者は9名(23.7%)となっています。また、道外に拠点を持つ利用者は凡そ18.4%。刑務所などの拘留施設から支援に繋がった方(※1)が4名(10.5%)となっています。

※1:刑務所などの拘留施設から出所後、生活拠点や行き場が無く、社会生活の基盤を構築するまでの間の支援として受け入れを行いました。支援の入り口は、主に帯広市生活支援課の要請によるものであり、保護観察官の付き添いを得て施設利用に至っています。

◆令和5年度事業において当シェルターを利用した方の課題は上記の表の通りとなります。
最も多い課題は、「経済的な貧困」で27件(71.1%)。次いで「居住地が無い問題」で23名(60.5%)、「心身の障害に由来する問題」16件(42.1%)と続きます。
「居住地が無い問題」は、多くの場合で貧困に由来する他、家族関係の問題により居住地を追われるなど、複数の複雑な問題に連動しています。家族関係の問題も、「心身の障害に由来する問題」「心身の病気に由来する問題」「DV」など複雑な問題が絡み合っており、「経済的な貧困」に至る経路的要因が複雑なものである事を再認識するに至りました。

◆当法人の運営するシェルターは、生活困窮の中でも特に緊急性が高いと思われる方々を受け入れる施設である為、元々長期滞在を前提とはしていません。まずは心身の安全を図り、衣食住に不安の無い場所で体制を立て直し、次のステップに進む準備を行う場所と位置付けて運営を行っています。その上で、シェルターの利用者が新たな生活を始める為の支援を行っています。

しかし、現実的には生活困窮から自立的な生活に立ち戻るのは難しく、就労自立に至ったのは2名(5.3%)に留まりました。集計上「自立」となっているのは、主に「経済的な生活困窮」に依らず、家族問題などによって緊急的な避難を必要とした方々で、自身の居住地や実家などに戻った方々となります。
多くの方は、心身の障害や病気などを原因として、当面は就労不能と判断され、生活保護の措置を受ける事となりました。心身の障害や病気、慢性的な家族関係の問題などは短期が解決できるものでは無く、当シェルターを出た後についても、専門的且つ継続的な支援が望まれます。

また、出口(居住地)の集計において「消息不明」となっている1名については、支援中に失踪し、その後札幌市において保護された事が確認されています。支援が必要とされている状況にあっても、その場に落ち着き自己課題に向き合う事ができないケースもあり、人を支援する事の難しさを再確認させられる案件となりました。

同じく、出口(居住地)の集計において「刑務所」となっている2名は、生活困窮から万引きを繰り返し、一時的な保護の後に警察管轄となった案件などです。犯罪行為をしないと言うのは、もちろん本人の意志に係る問題ではありますが、同時に生活困窮の課題や心理的な課題のケア・フォローによって防ぎ得るものでもある為、犯罪抑止の観点からも生活困窮者支援の重要性を認識する案件となりました。

(2)事業実施結果の分析

①【孤独】の傾向
当法人の運営するシェルターを利用した多くの方が一人で生活しており、困った時に相談し、支え合う身内がいない状況でした。
孤独な状況におかれ、心身や生活に対するフォローが一切無い中で、何らかの問題が発生し、その後の歯止めが利かず、一気に生活困窮に陥った事が推測されます。
また、近しい身内が居ない為に【場所】への定着が弱く、課題が生じた際に社会から弾き出されやすいと言う傾向が見て取れます。

当法人では、支援担当者と利用者の間におけるコミュニケーションを重視しています。特に、人間的なやり取り(=非制度的なやり取り)を重視し、利用者との信頼関係の構築に努めています。その手段の一つとして、【丁寧に調理した食事の提供】と【食事をする場】を大切にして来ました。その他、当シェルターを退去した後についても定期的に連絡を取り合う他、いつでも遊びに来るように伝え、「人との結び付き」の構築に努めています。

当法人の運営するシェルターは、本事業における【食事の提供】についてご協力を頂いている飲食店【コミュニティサロン あがり框】と隣接しています。当法人の理事達もよく利用する飲食店であり、シェルターを退所した後も食事に来てもらう事によって、全てでは無いものの関係性を継続する事ができているケースもあります。

当法人はこれまでの活動を通じて、【孤独】の課題を解決する手段として、【食事とコミュニケーション】ができる環境の構築が効果的であると考えています。

②【高齢化】の傾向
当法人のシェルターを利用した38名の内、55.2%が50歳以上の方でした。
当法人が生活困窮支援を開始して以降、年齢層の高い方の生活困窮が多くなっている印象がありましたが、令和5年度事業の実績から見ても、有意に増加傾向が認められます。

【団塊】と呼ばれる世代の高齢化が進行している事が原因と見られ、その中でも伴侶や子供の居ない方々が経済的困窮や生活力の低下などの要因によって、支援が必要になるケースが増えています。70歳代以上となると、身体機能の衰えもあり就労も難しい為、年金と生活保護の併給となりますが、経済的な問題以上に日常生活の支援が必要になるケースが多い状況です。また、50歳代であり、まだ十分に就労が可能な身体機能を有していても、十分な生活力を確立できないケースが散見されます。

以上の事から、今後は経済的な観点からの支援だけでは無く、「生活力」の観点からも効果的な支援体制の構築が必要である考えています。

(3)生活困窮支援における支援の課題

本事業の実施を通じて、生活困窮支援における様々な課題を改めて認識しました。生活困窮者の課題はそれぞれに個性的であり、また多岐に渡る為、支援する側としても実態に沿った支援体制の構築と支援スキル向上、支援制度の整備が必要であると考えます。

以下に、本事業を通じて認識した課題を記述します。

①環境の支援

ア.生活困窮に至る前(入り口前)の支援制度の構築
・心身に課題や障害を持つ方々の生活相談窓口の設置
・老齢者の生活相談窓口の設置
・心身に課題や障害を持つ方々や老齢の方々でも従事できる就労の支援
・「食事とコミュニケーション」の場の構築

イ.生活困窮から脱する為の支援制度の構築(出口戦略)
・生活困窮から脱するまでの安心安全な拠点の整備(シェルター事業の継続)
・生活力向上の為の支援(ワークショップ等)
・住宅セーフティネットの拡充
・各種支援機関との連携支援体制の拡充

②心身の支援

ア.心身の専門家による支援体制の構築
・精神科医や臨床心理士、カウンセラーによるアセスメントの実施
・心理的コンディションをケアする為のプログラムの構築
・内科医等による健康状態の確認

イ.生活困窮者の利害関係者に対する支援等
・家族に対するカウンセリングや、生活相談の実施

第4.今後の方向性

(1)シェルターの方向性

当法人は、【赤い羽根 ポスト・コロナ社会に向けた福祉活動応援キャンペーン 居場所を失った人への緊急活動応援助成 第7回】の助成を得て、令和5年4月1日から令和6年3月31日の事業期間でシェルター事業を継続する事が出来ました。しかし、令和6年4月1日以降の事業に関しては、未だ十分な財源を確保する事は出来ていません。しかし、北海道十勝における冬の寒さは厳しく、生活困窮者に衣食住を提供する施設が無くなる事は、地域における生活困窮支援の致命的な欠落になると考えています。

そこで当法人としては、令和5年度のシェルター事業において実績のあった【刑務所などの拘留施設から退所された方々】の内、生活基盤と生活拠点を確保できていない方の一時的な受け入れ事業(自立準備ホーム事業)を行う方針としました。既に、当法人の運営するシェルターの居室6部屋の内、2部屋を対象として【自立準備ホーム】の認定を得ています。【自立準備ホーム】の制度利用により、国からの支弁を頂く事ができる為、これをシェルター運営の財源の一部とする方針です。

更に、6部屋の内1室を対象として、地域の皆様や事業者様のご理解とご支援を得て、基金的な運営を行う事を考えております。

残り3部屋については、従来通りのシェルター機能として運営を継続する方針です。

(2)当法人の今後の方向性

当法人は、本事業を通して生活困窮支援に係る様々な課題を認識しました。その上で、地域における生活困窮支援の機能を維持、拡充する為に、当法人にできる事、すべき事を検討しました。

①まず第一に、生活困窮に係る緊急性の高い案件に際し、即時に保護する事ができるシェルター機能の維持は、不可欠であると判断しました。この為、当法人では、どのような形であれ緊急性の高い生活困窮者を受け入れる事ができるシェルター機能を維持し続ける事としました。

しかし、当法人がシェルター運営を開始した当初と比較して、地域における生活困窮者支援機能は拡充され、他支援組織との連携体制も進んで参りました。当法人の負担割合も相対的に軽減されつつある為、これを機に地域における当法人の役割を改めて見詰め直した結果、シェルターの居室の一部を【自立準備ホーム】に充てる事と致しました。

これにより、地域における生活困窮者支援の機能について、支援組織同士の役割分担を明確にし、不足部分を上手く補って行く事ができると考えています。

②第二に、当法人の運営するシェルターや他事業の財源獲得に向けた、独自の収益事業の開発が不可欠であると判断しました。
しかし、当法人の現在の人員体制では独力での事業展開は難しい為、他事業者(非福祉事業者)との連携・提携・協業などの形で事業開発を進めて行く方針です。

具体的には、かねてより当法人の活動に賛同し、色々な面でご支援を頂いている派遣事業者様と協力し、経済的困窮に陥って当法人のシェルターを利用する方々の内、労働意欲が有りつつも、心身の課題によって長時間は働けない方々を対象として、短時間で無理なく作業を行える仕事の請負事業などを検討しています。
これにより、【経済的困窮者の収入源の創出】【就労訓練(リハビリテーション)】【シェルター運営の財源獲得】を図りたいと考えています。

第5.後記

当法人は令和元年4月19日に設立され、今年(令和6年)で創設5周年を迎えます。
当法人の活動にご理解とご支援を頂いた多くの方々の助けがあったからこそ、これまで生活困窮者支援のシェルター運営を継続する事ができました。
この場を借りて、改めて心よりのお礼を申し上げたいと思います。

まだまだ力不足ではありますが、これからも地域の福祉に貢献する事ができるよう努力を続けて参ります。
引き続き、皆様のご理解とご支援を頂けると幸いです。

トップページにもどる